僕らのはなし。①
「伊崎、大丈夫??」
別荘の洗面所で1人、ぼんやりと鼻血を洗い流している伊崎にゆっくり近寄り声をかけた。
「星野。
お前、俺に何か隠してないか?」
「えっ?」
「ブレスレットはどうした?」
「それは…ごめん。
昨日なくしちゃって。
いろいろ探したんだけど見つからなかったの。」
もうこれ以上隠せないと思ったし、嘘もつきたくなかったから…事実を話して謝った。
「どうして言わなかった?」
「言えなかった。ごめん。
ちょっと…」
「罰。」
何故か抱き締められて、私が離そうとすると力を強めてそう言った。
その後、一旦少し力を緩め、離れるともう一度顔が近づいてきた。
でも、私は…まだ答える事が出来なくて顔を背けた。
「俺はそんな気が長い方じゃない。
早く俺んとこに来い。」
それだけ言うと戻っていった。
一旦、部屋に戻って着替えてからリビングに行くと、皆も戻ってきていた。
「どうしたの?」
集まって何かを見ている皆にそう聞いてみると、一冊の雑誌を見せられた。
雑誌は、聖奈さんと外人のイケメンで仕事も出来そうな男の人が2人並んで映っている熱愛記事だった。
「やっと時雨がおかしかった理由が分かったな。」
「相手は外国の次期大統領って言われてる若手政治家らしい。」
「アイツ知ってたんだろうな。」
3人がそう話してるけど、私は何も言えなかった。
「時雨は??」
「夕方から姿が見えない。」
「湊、ちょっと…」
柚瑠に声をかけられ、少し2人で離れたところに移動した。
「王子様の異変はこれだったのね。」
「うん。
どうしよう、私…。」
甦るのは、私が前に先輩に言った言葉だった。
『多分、どっかの国の時期王様とか大統領候補とか凄い人と結婚するんだろうなぁ。』
前に私は結城先輩に聖奈さんが憧れだって話してこう言った。
先輩は即否定したのに、私がそんなの分からないって。
今ならわかる。
自分が無知で、無意識にどれだけ相手を傷つけたか。
好きな人が他の人と結婚するだろうなんて言われて、嬉しい人は居ないもの。