僕らのはなし。①
「何してんの?」
突然、そんな聞き覚えのある声で、この状況には到底不釣り合いな淡々とした問い掛けが聞こえた。
全員が急いで声のした入り口を見る。
「「「結城さん!!」」」
3人が驚いたように彼の名前を呼んだ。
私も驚いたけど、口を塞がれてるので声を出せない。
「…手、退けてくれない?」
先輩は3人を静かな湖のような眼で見つめて、有無を言わせない感じでそう言った。
3人は慌てて、手を退ける。
「何か…忘れてない??」
「えっ?」
こっちに近づいてきて、私の顔を少し覗きこむようにしながら、そう聞いてきた。
私も、突然の思わぬ問い掛けに間抜けな返事を返してしまう。
「ホットケーキ…膨らまなかったんだけど。」
「…えっと、あの…ベーキングパウダー??」
今の状況を上手く把握出来ないまま、必死に思考を働かせ、そう答えた。
「そう…それ。きっと。
あと、ミックス粉も売ってた。」
「あの…いい加減助けてもらえると…。」
状況を理解してる上で全く無視なのか、それとも本当に分かってないのか分からないけど、助けを求めてみた。
今はまだ大丈夫だけど、このままだとヤられてしまう。
「あぁ…消えて。」
「でも、伊崎さんに言われてますし!!」
「良いから…消えて。」
先輩は頷くと3人に視線を移し、静かに言いはなった。
普段大人しい人がキレると恐いとはまさにこの事で、最後の方は急に氷水に突き落とされたような冷たい空気が漂ってきた。
3人は一目散に倉庫から出ていった。
呆然としていると、急に肩に何かをかけられた。
確認してみると、さっき私が脱がされたベストだった。
「さすがにYシャツ1枚は寒そう。」
癖なのかしゃがんで顔を少し近づけそう言うと、立ち上がり倉庫の入り口へ向かった。
「ベーキングパウダー…やり直しだな。」
「あのっ、ありがとうございました。」
呟きながら、あっさり行ってしまいそうな先輩を急いで呼び止め、そうお礼を言った。
「勘違いするな。
こういうの嫌いなだけだから。」
そう言うと、もう振り返る事なく行ってしまった。
本当にあの人は優しいのか優しくないのかよく分かんない。
でも、気づいたらいつも居るし、助けてくれる。
全然分からない事だらけ。
知りたいと思うのはどうしてなんだろう??