僕らのはなし。①
それから、自分でも自分の気持ちのコントロールの仕方がよく分からなくなってしまったらしく、伊崎に何度か誘われては断る日々が過ぎた。
コンクールも近い事だし、暫くは専念したかったのもある。
朝から夕方近くまでピアノのレッスンに励み、夜はバイトを詰め込んだ。
ある日、ピアノのレッスンを終え、帰ろうと学園の門に向かって歩いていると、結城先輩に会った。
「どうも。」
「夏休みなのに何で居るの?」
「ピアノのレッスン。
もうすぐコンクールがあるから。」
「あぁ…そっか。」
先輩は不思議そうだったけど、説明すると納得したようだった。
「先輩は?」
「俺は楽譜を取りに。
一冊忘れてたのに気づいてね。」
「そうなんだ。」
「ちょっと話す?」
「うん。」
私達は場所を近くのカフェに移動して話す事にした。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
夏休み中はラウンジはお休みなので、勿論いつも料理や飲み物、スイーツを用意してくれるスタッフさん達も居ない。
席取りを頼まれ、座っていると先輩が2人分の飲み物を持ってきてくれた。
「レッスン、進んでる??」
「どうだろう?
時間は結構かけてるんだけど、今一つ集中出来てないのかな。」
「そうなんだ。」
「こんなの…初めてなの。
いつもね、コンクール前になるとより集中して、時間も忘れて弾いてるから。
私らしくなくて戸惑ってる。」
「俺もその経験あるかも。」
「そうなの?」
「うん。」
初めての事に戸惑っていたから、先輩も経験したことだと聞いて少し落ち着くのが分かった。
♪~
それからも話していると、先輩の携帯の着信音が鳴った。
「純からだ。
もしもし?
今?…学校の近くのカフェ。
あっ、ほ…
何でもない。
うん、分かった。」
先輩が会話の中で私の事を伊崎に伝えようとしたのが分かって、必死に腕を交差させ、×を作ってダメだとジェスチャーで伝えたら、先輩は言わないでくれた。
「今から純来るらしい。
星野一緒に待ってる??
純に会えるけど。」
「えっ、あ!
今からバイトだった。
じゃあ帰るね??
ご馳走さまでした。」
それだけ言って、先輩の返事は聞かずに慌ててカフェから飛び出した。
それからはスピカに駆け込み、仕事に専念するようにしてたけど、やっぱり何か変なのか柚瑠は首を傾げていた。