僕らのはなし。①
「本当に大丈夫?」
「うん。」
あの後、レッスン室に居るのも落ち着かなくて、早くに練習を切り上げ、柚瑠と待ち合わせして一緒に帰る事に。
今日の事を早速話した私に心配そうに聞いてくれたので、少し笑顔を作って頷いた。
「でも、本当に最悪だね。
いくら顔が良くてお金があっても、マジであり得ない。
そんなのが4人も居るなんて。」
「いや…そうでもない。
1人ね…変わった人が居るの。
何か違うんだよね…他の3人とは。」
「湊?
もしかして。」
「えっ、何??」
「湊、もしかしたら…。」
柚瑠が何かに気づいたように言いかけた時、見慣れた後ろ姿を見つけた。
「あっ、ごめん。
先帰っててくれる??」
「良いけど…大丈夫??」
「うん!知ってる人が居ただけ。
今日はありがとう。
気をつけて帰ってね。」
「うん、湊もね?
じゃあまた明日…。」
そう言って先に柚瑠を見送ると、その人物に向かって歩き出した。
その人は葉月さんのポスターの貼られた前に立って、ポスターに寄り添うようにくっついていた。
「先輩もファンですか??」
私が声をかけると、その人…結城先輩はゆっくりとポスターから離れた。
「そんなとこに引っ付くと汚れますよ。
ちょっと待っててください。」
私は鞄からティッシュを取り出すと、軽くポスターを拭いた。
「よし、これで大丈夫です!!
綺麗ですよね…葉月さん。」
「彼女を知ってるの??」
「はい!私の理想の女性です。
綺麗なだけじゃなく、頭も性格も良いんですよね。
モデルの仕事で稼いだ給料も寄付したり。」
「よく知ってるね。」
「うーん?そうなのかわかりませんが、憧れます。
フランスの司法試験にも受かって、弁護士としてもこれからもっと活躍されそうですよね。
実家も凄いお金持ちだって聞いたけど、多分継がないだろうな。
もっと広い世界で社会貢献しそう。
休暇中にはアフリカやアフガニスタンやチベットにも行ってるって言うし。
多分、どっかの国の時期王様とか大統領候補とか凄い人と結婚するんだろうなぁ。」
「ただのモデルだ。
あり得ない。」
さっきまで笑顔で聞いてたのに、急に突き放すような言い方をされてしまった。
「どうしてですか?
モデルと結婚した王族の人や政治家も居ますよ?
彼女くらい素敵な人なら、オードリー・ヘップバーンみたいに凄い人と結婚も夢じゃないですよ。」
不思議に思いながらもそう話し続けた。
「君、よく喋るね。
うるさい。」
そう言って、踵を返して歩き出した。
「先輩?」
「君に何がわかんの。」
振り向かずにそう言うと、あっという間にいってしまった。
私、何か気に障る事言っちゃったかな??
私は自分が無神経な事を言ったことに全く気づいていなかった。
それに気づくのは少しあとの事…。