僕らのはなし。①
「うん、分かった。
気をつけてね。」
「うん。
ちゃんと仲直りしなよ。」
「うん。
じゃあね。」
まだ完全に大丈夫とは言えないのは分かってたけど、柚瑠は結構言い出したら聞かないとこもあって、今回はこれが彼女の私への思いやりだって分かってたから行く事にした。
ちょっと後ろ髪引かれる思いだったけど。
私が溜まり場に行くと、四宮さん以外の3人が居て、伊崎と神崎さんはトランプ。
結城先輩はギターをいじってた。
ピアノやヴァイオリンだけじゃなく、ギターまで弾けるなんて、かなり彼は多才な人だとつくづく思う。
こちらに背を向けるように座って、真剣にゲームに集中してた伊崎は私が入ってきた事に全く気づいていなかった。
「そういえば…仲直りは??」
「はぁ?冗談だろ。
誰が謝るか。」
「お前も威張れる立場じゃねぇだろ??」
「いや、俺から折れる必要はねぇ。
アイツに合わせて庶民のWデートとやらに付き合って、ダチの糞な男を掃除までしてやったのに。」
「じゃあ会わないのか?」
「今回ばっかりは俺も腹がたってんだ。
土下座して謝ってきても許してやるか。」
私がきた事に気付いた先輩や神崎さんが話を振ってみるとそう返ってきた。
「だってさ。」
「残念だったな…星野。
今日は帰った方が良い。」
「えっ?」
先輩と神崎さんの言葉と視線でやっと私が居る事に気付いた伊崎が振り返った。
「はぁ?いつ来た??」
「そんなに怒ってたなんて。
ごめんね。
今日は帰るね。」
「ちょっ、待て。
帰んな。」
私が帰ろうと踵を返し歩き出すと、慌ててソファの上を通って前に回り込んできた。
「お前、簡単に出入りしてんじゃねぇよ。
で、何の用だよ。」
「橋本から聞いた。
だから、謝りに来たの。
私の事言われて怒ってくれたんだってね。」
ちょっと気まずさと恥ずかしさで目を見れずに下を向いてそう言った。
「ごめんね。」
「謝っても簡単には許さないって言ったはずだけど??」
「じゃあどうしたら良いのよ??」
「俺の言う事3つ聞けよ。
そしたら許してやる。」
何か思いついたような顔でそう言った。
「ちょっと!!
…3つは多くない??」
「なぁ…俺の気遣いに気づかず踏みにじった罪は??」
「重いな。」
キレて怒鳴りそうになったのを抑えてそう言ってみると、伊崎は神崎さんたちに向かってそう聞いた。
それにノリノリな感じなのか、同意するように神崎さんは答えた。
「分かったわよ。
ただし、1分以内に言って。
1・2・3・4・5…20」
「ちょっ、座れ!!」
「1つ目ね。
21・22・23・24」
「数えんの早すぎだろ…立て!!」
「はい。
2つ目…。
あと1つね。
25・26・27・28…50・51・52」
「ストップ!!」
「決まった??」
伊崎が慌てる中、早めに数えていっていると、大きめな声でストップがかかったので、やめて聞いてみる。
「純くん、私が悪かったです。
許してください。
そう言ってみろよ。」
「はぁ?
何で私が」
「お前、初めから俺の事呼び捨てで、敬語もほとんど使ってねぇだろ。
たまにはダチ見習って、くんづけで言ってみろよ。
そしたら許す。」
「じ、じゅ…じゅ。
言えるわけないでしょ!!
もう良い!
勝手にして!!」
あんまりにも照れてしまって結局言えず、怒鳴って帰ってしまった。