僕らのはなし。①
16.恐怖の母親。


「ありがとうございましたー。
またお越しくださいませ。」
そう言って送り出すと、店内のお客さんはゼロになった。

私が働く喫茶店・スピカは常連さんばかりで、そんなに混まないから珍しい事でもない。


「何やってんの?」
「ちょっと…この間お世話になった人にお礼しようと思って。
クリスマスまではまだ大分早いんだけど。」
隅の席で休憩中の柚瑠がラッピングやら何かのお菓子作りの材料を広げてたので聞いてみると、彼女は照れたようにそう言った。

「お世話になった人って誰?」
「えっ、まぁ…知り合いよ、知り合い。
ところで、湊は何か伊崎さんにあげたりとかしないの??」
「私は別に。」
「湊も何か作ってあげたら?
伊崎さん、湊の事大好きだから喜ぶんじゃない??」
「そうかなぁ?
普段かなり高級なものばっかり食べてるから舌肥えてるんじゃ…。」
「気持ちのこもった彼女からの手作りお菓子と、料理人さんの作るものじゃ気持ちの度合いが違うでしょ。
これとこれあげるから。」
「じゃあこれも…」
「ダメ。」
ラッピング用品やお菓子作りに使うトッピングとかをくれた柚瑠に催促して、追加で貰おうとしたらキッパリ却下された。

「この店は客を出迎えんのか!!」
「えっ、あ、いらっしゃいませ!!」
「全く…この店の店員は全然なっとらん。
珈琲へのこだわりとか全く感じられん。」
急に大声が聞こえ、見てみると一人の釣りルックで竿とか持ったおじいさんが不機嫌そうに立っていた。

慌てて立ち上がり迎えると、案内する前に勝手に着席してしまった。

まぁ、他にお客さん居ないし、うちは常連さん皆が大体そうだから別に良いんだけど。








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