僕らのはなし。①
「ご注文はお決まりですか?」
「回鍋肉。」
「えっ、あの…おじいさん。
うち喫茶店なんですが。」
「すいませんが、斜め向かいの中華料理屋さんに行かれる事をオススメします。」
「回鍋肉!!」
「2人とも良いから。
少々お待ちください。」
私達がおじいさんに上手く伝わるか考えながら、注文をどう断るのか困っていると、おじいさんがさっきより強く言い直した。
すると、奥からマスターが出てきてそう告げると厨房へ行ってしまった。
「作れるのかな?」
「さぁ…。」
専門外の注文に、私達はマスターがちゃんと作れるのか分からなくて、首を傾げる事しか出来なかった。
「お待たせしました。」
暫くして、マスターは回鍋肉と他にも何品かのおかずとご飯をお盆に乗せて持ってきて、手早くお客さんのテーブルの上に並べた。
おじいさんは無言で食べ進める。
そして、食べ終わると静かにお箸をおいた。
「美味しかったですか?」
「こんな不味いのは初めてだ。
よくこの程度で商売出来たもんだ。」
「それにしてはパクパク食べてらっしゃいましたけど??」
「お金は払ってくださいね?
いくらかな?
特別注文だから…相場は?」
「こういうのって大体700円くらいの定食になるんじゃない??」
「じゃあそれで…。
おじいさん、700円になります。」
少し小声で柚瑠と料金について相談して、お値段を伝えた。
おじいさんは無言で持ってたクーラーボックスから魚を取ると、ズイッと私の前に差し出した。
困惑しつつも、恐々受けとる。
「えっ、何ですか?」
「あんなものに代金なんて払えるか。」
「そんな…困ります。」
「次は寄せ鍋だと店主に伝えとけ。」
そう言うと、引き留める声も無視で出てってしまった。