僕らのはなし。①


「どうしましょう。
結局料金もらえなかったんですが。」
「良いよ。」
「変なおじいさん。」
「マスター、元気だしてください。
きっと認知症なんですよ。」
「そうですよ。
気にしないでください。」
何だかマスターがかなり落ち込んでるように感じたので、柚瑠がそう励ますのに私も頷いた。


「あの…私達も残りがあるなら食べてみても良いですか??」
「うん、はい。」
もう一皿分余ってる回鍋肉のよそってある器を見つけたので聞いてみると、特に嫌な顔せずに出してくれた。

柚瑠が一口自分で食べると、魚を持っていて手が塞がっている私の口にも入れてくれ食べてみた。

「「美味しい!!」」
2人で顔を見合わせ、そう言った。
ホントに美味しかったから。

「中華料理屋さんより美味しいじゃないですか!!」
「マスター器用ですね。」
「これ、もらうね。」
マスターは私達の言葉も耳に入らなかったのか、私が持ってる魚を受け取り厨房に入っていってしまった。


「まさか…ホントに作る気??」
「さぁ…。」
2人で顔を見合わせ、そう呟くしかなかった。



夜、自分の部屋の机に座りながら、今日の柚瑠の言葉を思い出していた。

私がいつもお世話になった人って言ったら、それは結城先輩で、先輩との思い出を思い返していたんだけど…。

伊崎に何もあげないのかって聞かれたのを思い出した時、そう言えば色々してもらったわりにほとんど何も返せてないなって思った。

やっぱりたまには何かあげるべきだよね。
大したものじゃなくても、気持ちを込めて。

私は家族が寝静まった頃から作り始めた。

急だったからそんなに材料もなく、クッキーを作ることにした。


伊崎の顔を思い浮かべながら、結構真剣に作った。







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