僕らのはなし。①


私はその瞬間足をついてしまい、隣の彼女さんが彼氏をおんぶしてるカップルの優勝が決まった。

だけど、そんな事も目に入らないくらい伊崎のお母さんの鋭い視線から逃れられず…。

ついつい伊崎の後ろに少し隠れてしまったほどだった。



それからはあっという間で顎で後ろにいた黒スーツの人達にこちらを指したかと思うと、もうこちらを見ることもなく伊崎は連れていかれてしまった。

私は声もかけられずただ見送る事しか出来なかった。

残ったのは私の荷物と渡したはずのクッキーの箱の入った紙袋。


そこに居てももう何の意味もなく、私はトボトボと歩きながら家路についた。

でも、だんだん脚は動かなくなって、遂にはしゃがみこんでしまった。


不安で、心配で仕方なくて。
置いてかれて寂しくて。

膝に額をつけて、泣きそうなのを隠したかった。

「代行運転です。」
聞き覚えのある声がしたので顔をあげてみると、先輩がバイクに乗って笑顔でこっちを見ていた。

いつの間に…。
バイクの音全然聞こえなかったのに何で先輩の声には反応出来たのか…自分でも不思議だった。


「ねぇ、どうして分かったの?」
「行っただろ。
代行運転だって。
純に頼まれたんだ。
送ってくから乗って。」
「でも。」
「その方が純も安心だろうから。」
近づいて聞いてみるとそう言われて、そうなった以上乗らないわけにはいかず、先輩から渡されたヘルメットをかぶって乗るとバイクはゆっくり走り出した。




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