僕らのはなし。①


でも、時間は待ってはくれないので、パパがクビになった今、貯金だけで生活していくには限界があるから、今まで私が貯めてきた口座の通帳を渡そうとしたんだけど、拒否されてしまった。

とりあえずそれからはパパは再就職先を探し、ママは近所のスーパーでパートをする事に。
私もバイトを増やす事にした。


「どうぞー!
新しくオープンしました。
是非ご来店ください。」
今日は日雇いの即日支給のマッサージ店のチラシ入りのティッシュ配りのバイトを学校から帰宅すると、すぐ出勤してやっていた。

最近12月に入って大分寒くなってきたから、メイドのようなブラウスとリボンとワンピースの格好でスカートはミニでかなりきついけど、給料は外でティッシュ配りという事もあって、時給1200円なので笑顔で頑張って配っていた。


「私にも頂けますか?」
突然、後ろからそう声をかけられた。


「どうぞ?」
皆私達が差し出したのを受けとる人は無言で受け取る事が多いので、珍しいなと思いながら振り返り相手に差し出しながら顔を見てみると、こないだ伊崎のお母さんと一緒に家に来た秘書の…確か時田と呼ばれてた男だった。

「どうして…。」
「通りかかったら貴女が見えたもので。」
聞いてみると、男はティッシュを受け取り、説明しながら視線を移した。
男の視線を追ってそっちに目を向けると、高級そうな黒い車が1台停まっていて、開いてた後部座席のドアからは伊崎とその奥に伊崎のお母さんが座ってるのが見えた。

伊崎はジッとこっちを見ていて、私もジッと見つめ返した。

「では。」
そう声をもう一度かけてくると、男はスタスタと歩いていってしまった。

男は車の運転席に乗り込むと、すぐに発進させた。
私達は一度も話す事なく行ってしまった。


「ちょっと星野さん?
ちゃんと仕事して。」
ボーッと車が去っていった方を見つめていると、責任者の人に怒られ、仕事に集中しようと再び配り始めた。

すると、急に後ろから腕を引かれ、その人物に引き寄せられたかと思うと唇が重なり合った。

直前に誰がやったのか分かったから抵抗ははしなかった。
その人物とは…勿論伊崎だ。




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