僕らのはなし。①
「何で黙ってたんだよ。
言えよな。」
あの後、一旦目をつむって伊崎のキスを受け入れたけど、バイト中だった事を思いだし慌てて離れると、周りは見物人が集まっていた。
恥ずかしさと、申し訳なさで責任者の人に謝り、とりあえず休憩をもらって上着だけ羽織って伊崎と歩き始めるとそう言われた。
「言ったら、お金で解決しようとするんでしょ。
自分で何とかしたいから。」
「だからってそんな格好で…みっともない。」
「そうかもね。
でも、私はそれが格好悪いとは思わない。
それに、付き合ってるけど私は私だから、自分の事は自分で決める。」
「なら、どうしろと?
ただ、自分の女が冬に薄着でミニスカ履いて、ティッシュ配りしてるの黙ってみてろって言うのか??」
「うん。そうして。
黙ってみてて。
私の彼氏でいたいなら。」
「お前は…。」
呆れたようにそこまで言って、その先は言わなかった。
「何?」
「いや。
でも、心にとどめといてほしいことがある。
別に怖がらせたいわけじゃないけど、ババァは何しでかすか分からねぇ。
だから、もし何かあったら、すぐ言ってこい。」
「うん、分かった。」
真剣な顔して言ってきたし、もう何も被害がないとは言えない状況なので素直に頷いた。
「それともう1つ…何があっても俺から離れるな。
約束しろ。」
「伊崎…それはどうだろう?
私が逃げだしたくなる理由は大抵アンタだから。
…でも、伊崎のお母さんを理由に逃げたりはしない。
それだけは約束する。」
「良かったよ。
気性が荒くて、凶暴なお前が彼女で。」
「何それ?
誉めてんのか貶してんのかわけわかんない。」
「誉めてる。」
「そう?
あっ、これあげる。」
たまたまジャンパーのポケットに手を突っ込むとさっき配ってたティッシュがあったので、伊崎にあげた。
そして、いつの間にか止まってた歩みを再開すると、後ろから追い掛けてきた伊崎が手を繋いできたので、少しそのまま歩いた。
その後は別れてまたバイトに戻った。