僕らのはなし。①
「でも、どうして?
放浪の旅に出てたんじゃ…。」
とりあえず挨拶を交わした後、マスターに許可をもらって私は少し話す時間をもらう事にした。
もう少しで休憩は終わりだったんだけど。
そして、一番疑問に思った事を聞いてみた。
「おばさんから母さんに連絡があったみたい。
おじさんが急にクビになって今大変だって。
湊、大丈夫か??」
「うん。
タフさが取り柄な私だからね。
その辺心配ないよ。」
「お前、昔から滅多に弱音とか吐かないだろ。
だからこそ、周りが心配になんだよ。」
「私を心配して帰ってきたって事??」
「まぁ、なきにしもあらずかな。
心配になったのもあるし、そろそろ帰ってくる予定でもあったから。」
「何かやりたい事見つけたの??」
暁ちゃんの言葉を聞いて、ある事に思い当たって聞いてみた。
私と柚瑠より8歳上の暁ちゃんは3年前…大学を卒業した頃に、特にやりたい事がなかったらしく、書き置きだけ残してある日突然何処かに旅に出てしまった。
それまで家も近く、母親同士が姉妹で、幼馴染みであり、兄妹のように育った私達。
歳は離れてたけど、暁ちゃん大好きで引っ付いて回ってたから居なくなった時はかなり悲しかった。
因みに前に伊崎と柚瑠とクソ男とWデートに行った時に言ってた最後に一緒に遊園地に行った相手というのは暁ちゃんとそのお友達の事。
「あぁ。
俺、店始めようと思って。
湊…もし良かったらその店でピアノ弾かない??」
暁ちゃんはやっぱりいきなりそう言ってきた。
いつも唐突な人だから。
「少し…考えさせて。」
私はそう答えた。
確かに暁ちゃんと働けるのもお金を稼げるのも嬉しいけど、ピアノがまたお金を稼ぐ為の手段になってしまうのが…素直に喜べない理由だった。
でも、そこはさすが暁ちゃん。
私の事をよく分かってる。
「ピアノを金稼ぎの手段にしたくないのは分かってる。
けど、俺はお前が自分の好きな事を出来る仕事をしてほしいと思ったんだ。
それだけ。
だから、気負わず楽しんでやれば良い。」
そう言って、返事を待ってるって言って帰っていった。