僕らのはなし。①


ー時雨sideー

俺は純が彼女を抱いて連れ去るのを、驚きながら見ていた。

純は子供みたいな奴で、奴のあんな顔を見たのは初めてだった。
ただただ大切で心配そうな。
アイツは自分の表情や行動に気づいてるんだろうか?
それがどういう意味なのかも。


でも、それは俺にも言える事だった。
少なくとも俺も純も興味のない相手には全く気にもとめないし、視線すら向けない。

そんな俺達が一方はつい絡んでしまい、もう一方はつい放っておけなくて助けてしまう。

俺には聖奈が居るのに。


だから、そういう意味ではないんだろうなんて、自分に言い聞かせながらも、気になる。

そう思わせるような何かが彼女…星野 湊にはあるのかもしれない。


気になり出したのがいつかなんて分からないけど、初めて知った時、純相手に全然屈する事なく淡々と話すし、ジュースまでぶっかけるその度胸に驚いたと同時に面白い子だと思った。

かと思ったら、屋上で文句言いながら柵をガンガン蹴ってたり。

星野のピアノ演奏を聴いた時はその音に聞き入った。
真っ直ぐで、凄い柔軟な表現力で、技術も凄くて。
彼女はきっと神に選ばれた才能の持ち主だと思った。

きっといつか有名になって、世界に羽ばたく気がする。


純が彼女を気にし出したのは、回し蹴り以来だと思うけど、もしかしたら出逢った頃からだったのかもしれない。
自分に向かってくる女なんて今まで居なかっただろうし。


純は彼女をどうするつもりなんだろう。
そして、俺は彼女をどう思ってるんだろう??








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