僕らのはなし。①
ー湊sideー
保健室に連れて来られたけど、先生は居なかった。
「誰もいねぇのかよ。」
私を椅子に降ろし、室内を見回しながらそう言うと、伊崎はティッシュの箱を手にして、前に置いてあった椅子に向かい合うように座った。
「ほっといて。
自分で出来るから。」
ティッシュを1枚取って私の鼻にあてがおうとするのを払って、私は自分でティッシュを取って鼻にあてた。
「ったく。
何で避けたり、手でかばわねぇんだよ。
顔面で受けて、バカじゃねぇのか。」
「別に関係ないでしょ。
それに、手は命より大事なの。
だから、怪我するわけにはいかない。」
「だからって」
「もう良いでしょ。
大体、誰のせいでこうなったと??」
「それは…」
「ね?
だからほっといて。」
私は奴の話を無理矢理遮ってそう言った。
席を立ち、保健室にある鏡を見ながら鼻の上の部分を押しながら鼻血が止まるのを待つ。
「なぁ…助けてやったのに他に言う事はないのか??」
「誰も助けてくれなんて頼んでない。」
「お前おかしいんじゃないか??」
「はぁ…どういう意味?」
私に着いてきて、いきなりそんな風に言いながら私を自分の方に向かせた。
軽く頭に来て、それだけ返した。
「長身で頭も良くて何でも出来て金持ち。
いうまでもなくパーフェクトな俺のどこが気に入らないんだ?
普通なら、向こうから寄って来るくらいの好条件だぞ??」
「アンタ…やっぱりバカじゃない?
言ったでしょ。
私はそんな事に何の魅力も感じない。
自分の最悪さに気づいてないみたいだけど…私がアンタを気に入らないのは、偉そうな歩き方とか、学校にさも当たり前みたいに私服で来てるとことか、自分で稼いだ事もないのに親の権力かさにきてでかい面してるとことか、自分より弱い人をいじめて楽しんでる無神経なとことか。
そういうの大っ嫌い。
例え世界に男があんただけになったとしても、絶対有り得ない。
だから、私に構わないで!!」
私はそれだけ睨むように真っ直ぐ見て言うと、鏡で鼻血が止まったのを確認して、ティッシュをゴミ箱に投げ捨て、保健室から出ていった。
中からは何か大きな物音がしたけど、構わずレッスン室へ向かい、ひたすらピアノを思うまま弾いた。