僕らのはなし。①
「乗れ。」
「なっ、…はいはい。」
相変わらずな偉そうな物言いにムカついたけど、その度にギャーギャー喚くのは馬鹿だと割り切る事にした。
空港まで何も話さなかった。
見送りに行くつもりなのは本当だけど、結城先輩が来るのか心配だったし、コイツとも結城先輩とも気まずい感じがあったから、コッソリ聖奈さんだけに何とか会って見送りするつもりだった。
頭の中はこないだの事でいっぱいだ。
あっという間に空港に着いて、待ち合いロビーで皆が集まるのを待った。
皆というのは、四宮さんと神崎さん…それから結城先輩の事。
四宮さんと神崎さんは直ぐに来た。
けど、なかなか結城先輩が来ない。
「お前の周りだけ暗い。
お前のせいで俺らの輝きが台無しだ。」
時間が迫るほどに、こないだの事でどんどん沈んでいく私の気持ちが外に出てしまってたのか、急に伊崎がそう言い出した。
「伊崎、聞いてもいい?」
「許可しなくてもどうせ聞くんだろ?
普通にしてろ、らしくねぇ。」
「好きなのに…好きな相手を想って自分の感情を抑えるのは良い事かな?」
「良いわけねぇ。
そんなの好きなんて言わねぇ。
明日地球が滅亡でもしたら、絶対後悔するだろうが。 」
「伊崎…アンタって、完全にバカなわけじゃないかもしれない。」
ハッキリと言い切った伊崎の言葉を聞いて、何かしっくり来たし、納得出来たので軽く褒めた。
「今更なんだ?
俺の信条は何もしないよりはして後悔しろだ。」
少し嬉しそうにニヤけながらも、そうまた真っ直ぐな事を言った伊崎に内心感心した。
結局、結城先輩が姿を現さないままお見送りの時間が来て、移動する事になった。
「元気でね?
問題起こしちゃダメよ。」
見送りに来た私達4人…というより、3人に聖奈さんはそう言った。
そして、まず四宮さんとハグをした。
「遊びに行くよ。」
「個展で来なさい。」
そう言葉を交わすと、次は神崎さんとハグ。
「身体に気を付けろよ。」
「新、優しさも罪よ。
逆に深く相手を傷つけるんだから。」
そう言われた神崎さんは、痛いとこをつかれたのか胸を押さえた。
次は伊崎とハグ。
「何で聖奈が働かなきゃいけないんだよ?」
「珍しいわね。
私の心配してくれるなんて。」
「そんな事ないだろ。
元気でな。」
少し照れたように、聖奈さんから視線をそらし、伊崎はそう言った。
そして、私にもハグしてくれた。
私も聖奈さんの腰に軽く腕を回して答えた。
「湊ちゃん、約束…守ってね。」
「お元気で。」
「皆、元気でね。
じゃあ。」
最後に皆を見回しそう言った。
皆それぞれ頷く。
聖奈さんはキョロキョロしながらもピンと背筋を伸ばして歩いていった。
最後まで結城先輩の事は聞かずに。