僕らのはなし。①
「結局時雨の奴来なかったな。」
「言っただろ?
本当に質が悪いのは俺じゃなく時雨だって。」
「優しい奴ほど怒らせると怖いか。」
「酷いなぁ。」
空港内を移動しながら、神崎さんに伊崎、四宮さんが順に結城先輩の話をしていると、後ろの方からそう聞き覚えのある声で言ってきた。
皆、一斉に振り返ると、結城先輩が立っていた。
「時雨、もう聖奈行ったぞ?」
「いつ来たんだ?」
「3時間前。」
「隠れてたのか?」
そんな前から来ていたのに出てこなかった事を聞いて、何か腹が立った。
「先輩何してんの?
先輩の気持ちってその程度??
柱に隠れてみてるだけで満足なの?
好きなら追いかけなよ!
本当に好きなら先輩の方がそばに行けば良いじゃない!!
こんなとこでノロノロやってんじゃないわよ!!」
先輩の前に出て、もう言葉遣いなんて気にせずそう言ってやった。
先輩はフッと笑うと、ジャケットの内ポケットからチケットらしきものを取り出した。
「時雨…まさか。」
「次の便で行くよ。」
「本気か?」
「あっちには俺達居ないんだぞ?」
「分かってる。」
「時雨…。」
他の3人も戸惑ってるようだった。
勿論、一番驚いたのは言った張本人の私で、言葉も出ない。
「ったく、気を付けていってこい。」
「お前に難癖つけるような奴がいたらいつでも連絡してこい。
俺らが飛んでってやる。 」
「元気でな。」
3人はそう言って結局送り出す事にしたみたいで順々に言った。
「ありがとう。
君のお蔭で気づけた。
時には追いかける勇気も必要だって。
君に出逢えて良かったよ。」
そう言って、先輩は私の両頬に手を添え、おでこにキスをした。
私は自分が言ったわりに、一番状況を理解するのに時間がかかってるから、ただ受け入れる事しか出来ない。
頭が上手く回らない。
だけど、時間はあっという間で先輩は聖奈さんを追い掛け、旅立って行った。
「時雨!元気でなー!!」
「先輩…さよなら。」
飛行機を見送りながら、大声でそう叫び手を振る伊崎の隣で、誰にも聞こえないように小さくそう呟いた。
四宮さんと神崎さんはそれぞれ用があるという事で、帰りも伊崎に送ってもらう事になった。
「今日はありがとう。」
家の前に着いて、車から降りそう伝える。
「大丈夫か?」
「伊崎こそ…寂しいんでしょ?」
何故か一緒に降りて、ずっと一緒に居た幼馴染が1人旅立ってしまったのに、私の事を心配してくれる伊崎に素直に返せず、そうからかうように聞く。
「何言ってんだよ。
俺は寂しくねぇ。」
そう答えながらも目は若干泳いでるし、さっき泣きそうになったからか少し目が赤い。
「元気出せよ。
何かあったらいつでも俺んとこにこい。」
それだけ言うと、伊崎はあっという間に車に乗り込み走り去ってしまった。
「ん?どういう事??」
あんまりよく分からなかった。
ので、見送りながらもそう呟き、家に入った。