僕らのはなし。①


「あのー、どちら様ですか?」
「私、伊崎 純様の遣いで参りました。」
「えっと、誰ですか?」
「伊崎財閥のご子息の純様でございます。」
「「「伊崎財閥?」」」
名前を聞いてもピント来なくて聞き返したパパに黒スーツが答えると、3人とも驚いたように叫んだ。

「お嬢さんが朝帰りになってしまったのは自分のせいだからお詫びにとこちらを…。」
「えっ、そんなの結構です!!」
ポカーンとしている家族を気にしつつも、今回は私が悪いから頂くわけにもいかないと思い、そう伝えた。


「お受け取りください。
私が叱られますので。」
そう言われると、何かもらわない方が迷惑がかかるような気がして、とりあえず受け取った。

本当に高価な物だったら直接返そうと内心思いながら。

受け取るとあっという間に帰ってしまった黒スーツの人。


「で、伊崎財閥のご子息と一緒だったの?」
「ちょっと昨日私が待たせちゃってね。
その後、連れてった場所で閉じ込められて、圏外だったから連絡出来なかったの。」
「閉じ込められたって嫌がらせ?」
「そうじゃなくて、閉まる時間だったの気づかなくて。
気づいたらもう、職員さんが戸締まりして帰った後だったの。」
ママにまず質問され正直に答えると、マコが心配そうに言ったので、誤解を解くためにそう言った。
「そう。」
「ご子息とはどういう関係?」
「先輩後輩。」
「付き合ったりとかしないの?」
「えっ、何で?」
「湊ももう年頃だから…。
そろそろそういう話があっても良いんじゃないかって。」
「今は考えられない。」
「そうなの?」
「別に節度ある付き合いなら反対しないからね。」
「ありがとう。
でも、ないからね。」
両親の意外な言葉にグッと来つつも、まだ結城先輩を忘れられてないし、ピアノやバイトが忙しいからそれどころじゃないと思いそう言った。

あの後、貰ったのは高級そうなbagとスーツ。
返そうとも思ったんだけど、いつも私やマコの為にお金を使ってばっかりで自分達は高価なものを買ったりしない両親を想い、今回は有り難く頂く事に。

でも、いつかこの代金は返そうと思った。


それから急いで用意して、遅刻だけど登校した。
私が遅刻したくらいで変わらないので、誰も私を気に止めず、花に心配されただけだった。




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