僕らのはなし。①
「で、この男の事で何か知らないか?」
「それが…ホントに何も知らないんです。
昨日、友達に連れられてクラブに行って、居心地悪くて。
その時その人とも知り合ったんです。
それで、テラスに出てちょっと一緒に過ごしたんですけど…そこからの記憶がなくて。
目が覚めたら、ホテルで下着姿で寝てて…全然何も覚えてないし、私以外誰も居なかったし。
その人素性も知らないんです。」
「マジかよ。」
「ヤったのか?」
「ヤってない…と思いますよ。」
いつもなら、そんな下ネタの直な質問はされるとキレるけど、今回は仕方ないので突っ込むこともなく素直に答えた。
「確実か?」
「確かに私の格好を見れば勘違いするかもしれないけど、ヤってないです。」
これ以上は詳しく言えなかった。
「まぁ、そういうならそうなんだろ。」
「お前、そんな嘘つかないだろうし。」
「当たり前じゃないですか。」
四宮さんと神崎さんに柚瑠が言いきってくれた。
「私も、バイト前にクラブやホテルに行って、その人の事知らないか聞いてきたんです。
けど、知ってる人は居ませんでした。」
「何かおかしいと思った事はないか?」
「んー…あっ、何か鏡に口紅で昨日は楽しかったってメッセージが残ってた。」
「口紅?
星野の??」
一応言っておいた方が良いかと思って伝えると、神崎さんが聞いてきたから、口紅のメッセージの事を伝えると、四宮さんに聞かれた。
確かに何でなんだろう?
「私のじゃないです。
口紅なんて使わないから持ち歩いてるわけもないし。」
「男の人が口紅なんて持ってるんですか?」
「普通は持ってねぇ。」
私の答えに続き柚瑠が聞くと、神崎さんが答えた。
てか、柚瑠…何で2人と普通に話してるんだろう?
会った事1回しかないハズなのに…。
今はそれどころじゃないから聞かないけど。
「3人居るよ。」
その時、今まで一度も口を挟まずにカウンター内でカップを磨いてたマスターが、そう言った。
「えっ、どういう事ですか?」
「あっ、確かに。」
「俺ら何で気づかなかったんだろ。
馬鹿だわ。
確かに3人居るよ。」
「この角度からだとコイツには撮れない。
だから、この時この部屋には星野とコイツ…そしてもう一人居たんだ。」
私達が首を傾げてる中、早くもマスターの言葉の意味に気づいた四宮さんと神崎さんがそう説明してくれた。
「じゃあ…その人が湊をハメた真犯人って事ですか? 」
「あぁ、多分ね。」
「それとね、気になってたんだけど。」
「何ですか?」
さっきので、マスターに名探偵並みの洞察力があるのが分かったので、皆マスターの言葉に耳を傾ける。
「それ。
彼の右腕の、刺青じゃない??」
「あぁ、ホントですね!!」
「彫り師当たれば見つかるかも。」
「ありがとうございました。
じゃあ後は任せとけ。」
「奴を見つけ出してやるから。」
マスターの言葉で解決の糸口が見つかったらしく、2人はマスターにお礼を言って、私にもそう約束するとパソコンを片付け飛び出していった。