僕らのはなし。①


「やっぱり時雨の奴、何か変じゃないか?」
「まさか本当に向こうで本物の男になってきたとか??」
いつの間にか、四宮さん達も集まってきて、そんな事を言ってたけど、私は先輩を見ているだけで何も言えなかった。


先輩、どうしちゃったの??



次の日は、伊崎が昨日交際宣言してくれちゃったお蔭で大変だった。

登校早々に生徒達に囲まれた。


「あっ、湊ちゃんおはよう!」
「今日買い物行かない??」
「えぇー、家来てよ??」
「テニス部入んない??」
「今度遊ぼう!!」
そんな感じで皆口々に馴れ馴れしく名前を呼んだり誘ってきたり、親しくなろうとするもんだから、なかなか先に進めないし、そういう態度には慣れないので困った。


「はぁ!いきなり何なの?
あの変わり身の速さは。
逆に怖いっての。」
「今日は叫ばないの?」
屋上に逃げてきて、独り言を言ってると、後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。

この場所では何回も聞いて、居なくなってからも忘れられなかった人の声。

急な出現に驚き、後ろを振り返ると…入り口の扉から死角になって見えなかったとこに壁にもたれて、先輩が立っていた。

「先輩!!」
「元気だった?」
「はい。
先輩は?」
「そこそこ元気。」
「聖奈さんは元気ですか?」
「うん。」
「どうしてこっちに?
向こうへはまた戻るんですか??」
「もう戻らない。」
聖奈さんの名前を出した辺りから、少し口が堅い先輩。

こっちに歩いてくると、今度は柵にもたれて、小さくそう答えた。


「先輩、向こうで何か…」
「純とホントに付き合ってんの?」
「いや、まだそこまでじゃ…。
アイツが勝手に言ってるだけです。 」
「やっぱり?
じゃあさ…俺と付き合わない?」
「へっ?」
突然の思わぬ申し出に頭が真っ白になって、素っ頓狂な声が出た。


「冗談だよ。
純は俺の親友だから。」
「…ハハッ、ですよね。
吃驚した。」
「じゃあさ…内緒で付き合う?」
「先輩、冗談が過ぎます。」
「フッ…そうかな?」
「そうですよ。」
「久し振りに帰ってきて、皆あんまり変わってないのを感じると、やっぱり懐かしいね。
会いたかった。
…じゃあね。」
それだけ言って、先輩は屋上から出ていった。





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