詐欺師の恋
「あの、とりあえず、ですね…この、ほっぺたをですね、ぐにぐにするの、止めてくれませんか…」



中堀さんの指が私の頬をつまんで軽く引っ張ったりしてるんだけど。


すごい気が散る。


ざわざわする胸が苦しくて仕方ない。





「いいから、俺がしたの?あんたがしたの?」



いいからって!私ばっかり赤面観察されてるし!ずるい。



「…そりゃ、中堀さんに決まってますよ…」




本当は、ピンじゃなくてちゅーだけど。


っていうか、覚えてろよ!


意識ない、とか。昨日の私のときめきを返せ!



私は悔しくなって唇を尖らせた。





「…ふーん…、何で俺、そんなことしたんだろ?」




中堀さんは心底わからない、という顔をしてそう言った。



「知りませんよ!とにかく!もう放してくださいっ、お粥を見にいかないと…」




あれ、中堀さんの顔が近づいてくる―?




そう思った時には、額に音を立ててキスが落とされていた。




「よくわかんないけど、ごめんね?俺、シャワー浴びてくるわ。」




固まる私をよいしょっとどけると、中堀さんは立ち上がってスタスタとバスルームへ歩いていった。



放心状態の私は、今しがた起きた出来事を理解できず。




「~~~~~!!!!」





漸く頭が動いてきた頃には、これ以上熱を持ったら発熱に発展するのではと思うほど顔がぼんっと赤くなった。




自分の中に沸き起こる感情を制することなど出来ずに、ソファをばんばん叩いていると、小鍋が吹き零れた音がした。
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