詐欺師の恋
「何の事だよ?お前、そんなに有名人なわけ?」
からかうように笑えば、空生は伏し目がちになって、床を見つめる。
短いような、長いような、沈黙。
やがて―
「俺の母親さ、死んでんのは知ってたんだけど―殺されたらしいんだよね。しかも、同棲してた男に。結構でかい事件だったらしくて。」
嘲笑うかのように、話し出す。
彼は雄弁ではない。
こんな風に自分のことを話すのは、珍しかった。
「詳しく調べる気なんか、俺には更々ないんだけど。周りは調べんのな。ま、当たり前か。得体の知れない人間なんか、雇わねーよな。」
つまりはそれくらい。
「俺、生きてる意味、あんのかな。」
自棄になるくらい。
心が痛みで麻痺してしまっている、ということだ。
「…それって、全部お前の母親のせいだろ。」
暫くして燈真は、空生にある提案を持ちかける。
「母親に、復讐してやれよ。」