詐欺師の恋
すれ違いと偶然と
一週間もすれば、噂はあっという間に社内に広まった。
内容は、憲子経由で直ぐに知ることができた。
要するに、中堀さんが私の兄ではないことが明るみになったおかげで、以前の噂が再浮上したのだ。
つまり、宏章に振られた次の日に、もう新しい男ができていたと。
お騒がせな阿呆鳥の櫻田の相手の話は、酒のつまみになる。
その上、人の不幸は、蜜の味と言う。
つまらない社会生活において、この手のものは憂さ晴らしの玩具だ。
「ほーんと、男ったらし」
化粧室に入れば、これ見よがしに言われてしまう。
目線が交わらないのが性質が悪い。
まるで、私なんて居ないかのように振舞って。
「自分が非難されるのが嫌で、適当な嘘吐いちゃって。こんな女、佐久間さんも別れて正解よ。」
「ま、どーでもいいけど。社外出ただけ、マシでしょ。」
こそこそ、ひそひそ、チラチラ。
「あ、あれだよ。名前、なんだっけ?なんにでも付いてく馬鹿な…、アルマジロか!」
違うって。
歩いていれば、指を差され、背後から聞こえる声に思わずツッこむ。
しっかし。
脱力しながら更衣室に入り、後ろ手で戸を閉めた。
ラッキーなことに、誰も居ない。
―出所は一体誰なんだろう?
自分のロッカーに寄っかかって、腕を組み考える。
いつもは、色んな目撃者がそれぞれ話して、それが団子状に増えていって全く違う作り話になっていく。
だが、今回は。
憲子の話しによれば、中堀さんの悪い噂(詳しくはまだ知らない)もあるようだから。
どこまで本当かはわからないけれど。
少しは、中堀さんのことを知っている人間ということになる。