詐欺師の恋
気付いても、もう遅い。
《…どうして?》
中堀さんからの当然の反応。
「あ、え、えっと…その、ほら、も、もしかしたら早く終わるかもしれないし…遅くなるかもしれないし…待たせたら、折角良くなった風邪が悪化しちゃうかもしれないし…」
言いながら、この線で行こうと思った。
「だから!私のアパートのポストに鍵、入れておくので。中に入って待っててくれませんか?」
大胆な発想だとは思うが仕方ない。
今は他に案を思いつかない。
固唾を呑んで、中堀さんの返事を待った。
《ん、わかった。そうする》
やった、いつになく素直!
見えないのをいい事に、私はガッツポーズする。
そうと決まったら、部屋の掃除をきっちりしておかねば。
電話を終えた後、寒いのにも関わらず腕まくりをした。
月曜日になれば、中堀さんに会える。
そう思うと、折角の土日、大掃除に明け暮れても、全然苦にならなかった。