詐欺師の恋
だからと言って、どうこうってわけじゃないんだけど。
「よくわかんないけど、あんま無理すんなよ。」
課の入り口ですれ違いざまに藤代くんが耳打ちし、私を追い越す。
「………」
なんていうか、…戸惑う。
言った本人は既に背中を向けて居て、私のリアクションなんてお構いなしだ。
「珍しいね、あの藤代が花音に話しかけてくるなんて。」
自分のデスクに行くと、先に座っていた隣の憲子が興味深々な顔してこちらを見ている。
「…うん」
自分の荷物を置いて、PCの電源を入れながら、私は複雑な心境で頷いた。
藤代くんとだったら。
もしも、藤代くんが、私のことを好きだったとしたら、きっとその方が普通の恋愛ができると思う。
あくまで、好きでいてくれてるという過程の話だけど。
だけど、もうそんなのはいいんだ。
私はやっぱり、中堀さんが好き過ぎる。
普通の恋愛じゃ全然ないけど。