詐欺師の恋
でもきっと。
いや、絶対。
「…無理だ」
決意して直ぐに、弱音が口をついて出る。
笑ってさよならなんて、大好きな相手に向かってできるわけがない。
なんだ、その、絵に描いたようなキレイな別れ方。
不器用な私には、絶対に出来ない。
きっと無様にどうしてなんでと責め立てて、中堀さんがうんざりしてしまう気がする。
「り、理想は高く、現実は低く…」
どちらにせよ、自分なりに何らかの区切りはつけないと、前には進めない。
自身を慰めるようにぼそぼそと呟いていると。
「カノーン?!」
馴染みのある声が、上から降ってくる。
そして、恐らく、私の名前を呼んだ、気がする。
「え?」
つられるように顔を上げると、屋上に何やら人影が。
「きゃー!!カノン!!ちょっと待ってて!!!そこ!絶対動かないで!!!!」
逆光で見えない上に、なにやらわぁわぁと騒いでいるけれど、何を言っているか、全く聞き取れない。
挙句、ちらっと見えていた人影は、直ぐに消えてしまった。
ただ、ひとつわかるのは。
「…メリッサ???」
自分を呼ぶその声が、流暢な日本語を話す、碧眼の黒髪美人のものと似ている、という事だ。
予想だにしていなかった人物の登場に、私はあんぐりと口をあけたまま、その場に立ち尽くす。