詐欺師の恋
余計なこと
駅近くに建つマンションの1107号室。
がらんとした空間に、切れ長の目の男が一人、壁を背にして座り込んでいた。
外は夕暮れだろうか。
室内が大分暗い。
昼間の差し込んでいた光の温もりも薄らいで、代わりに冷え冷えとした空気が漂っている。
しかしそんなことには気付いても居ないように、男は何度も繰り返し同じことを思っていた。
―もっと、早くに動けばよかった。
大事にしていた鳥が、自分から籠を飛び出していってしまった。
折角、不自由のない世界で育ててやったのに。
「くそっ」
苛々した気持ちをぶつける場所がなくて、床を力任せに殴った。
―余計なことしやがって。
櫻田花音に対する空生の態度が、他と違うのは最初からわかっていた。
その上、本名を教えているなんて有り得ない。
なんてミスしてんだ、と思ってはいたけど、櫻田花音はターゲットじゃなかった。
利用する人間だったから、遊んでる女みたいだし、傍観者を決め込んでたけど。
それは、空生が他人を自分には入らせない、という絶対の確信があったからだった。
それなのに―
がらんとした空間に、切れ長の目の男が一人、壁を背にして座り込んでいた。
外は夕暮れだろうか。
室内が大分暗い。
昼間の差し込んでいた光の温もりも薄らいで、代わりに冷え冷えとした空気が漂っている。
しかしそんなことには気付いても居ないように、男は何度も繰り返し同じことを思っていた。
―もっと、早くに動けばよかった。
大事にしていた鳥が、自分から籠を飛び出していってしまった。
折角、不自由のない世界で育ててやったのに。
「くそっ」
苛々した気持ちをぶつける場所がなくて、床を力任せに殴った。
―余計なことしやがって。
櫻田花音に対する空生の態度が、他と違うのは最初からわかっていた。
その上、本名を教えているなんて有り得ない。
なんてミスしてんだ、と思ってはいたけど、櫻田花音はターゲットじゃなかった。
利用する人間だったから、遊んでる女みたいだし、傍観者を決め込んでたけど。
それは、空生が他人を自分には入らせない、という絶対の確信があったからだった。
それなのに―