詐欺師の恋
「五月蝿い…」
葉月を余裕の笑みで見下ろす俺と、俺を睨みつける葉月。
その後ろで空生はうんざりとした表情を浮かべ、席を立つ。
「えっ!あっ、あー!!零が行っちゃう!!!」
気付いた葉月が振り返って、慌てたように残念がった。
「お前がうるせーからだよーアホぅ。」
べぇっと舌を出して、葉月をからかうと、再びこちらを見た葉月の顔が怒りで真っ赤になっていた。
「黙りなさいよ!ニワトリ!!!」
「おまっ、まだそれを…」
きぃっと葉月が叫ぶと同時に、その向こうに見えていた空生の動きが、ピタリと止まったから。
俺も言いかけた言葉を切って、空生を見た。
「?」
空生も振り返って俺を見るから、目が合う。
そして。
「…崇の髪は、もう、赤くないよ」
そう言うと、空生は悪戯っぽく、小さく笑んで、また背を向けた。
「そ、そうだけどぉ、鶏冠がなくなっただけで茶色いニワトリもいるでしょ!!?」
葉月は声のトーンをしおらしく落として、そのまま空生の後を追っていく。