詐欺師の恋
「ったく…他の客が居ることを考えろっつーの。」
遠くなっていく2人の背中を眺めながら、燈真の小言を聞いた。
だが、俺の頭の中は、空生の台詞でいっぱいになっていた。
―崇の髪は、もう、赤くないよ
赤い髪が好きだった。
目立つことが好きだった。
赤く染めるのを止めたのはいつだっけ。
地味代表の茶色にしたのはいつだっけ。
茶色い髪のあの子の面影を、追い始めたのはいつだっけ。
カノンちゃんと会ったあの日から。
ひっかかっていた何か。
それがわからずに、ずっと胸に何かつかえていて。
あの日会ったカノンちゃんと一緒に居たあの男が。
俺から顔を逸らしたあの男が。
どこかで会ったことがあるような、知っているような気がしていて。
思い出そうとしたら、随分前の記憶まで引っ張り出してしまって。
―会社の、同僚…?
カノンちゃんは確かにそう言っていたけれど。
あの、眼鏡男。
やっと突き当たった答えに、目が見開かれる。
「あいつ…ミサキの…」
いつかの彼女の面影を追っていたのは、自分だけじゃなかったのかもしれない。