詐欺師の恋
見えない鳥籠
「お兄ちゃん、ありがとぉねぇ」
スタッフルームを出て直ぐの所で、葉月が壁に寄りかかって、こっちを見ていた。
「何のこと?つーか、お前そこでずっと待ってたの?客来たらどうするの。」
今晩は、途中からバーを葉月に任せて、俺は着替えを済ませた所だった。
「今ちょうど引いたところ。万が一来たらタカが出してくれるって。私はトイレット休憩だよん。」
えへへとはぐらかすように笑う妹のそれが、言い訳だということはバレバレだ。
「タカなんかに任せたら何出すかわからないだろ。早く戻れよ。俺はちょっと出てくるから。」
「あっ、ちょっと、待ってよ!」
ジャケットのボタンを閉じながら、葉月に背を向けて階段に足をかけると、葉月が駆け寄ってきて俺の袖を掴む。
「…何?」
「さっき言ったでしょ、ありがとうって。零をルナに戻してくれたこと、感謝してる」
上目遣いに俺を見る妹は、いつもの跳ねっ返りではない。
「…別にお前のためじゃないけど。利害が一致したってとこかな。」
そう言えば、葉月はにやりと笑って俺から手を放した。
「どんな手を使ったのかは知らないけど、お願いだから、もう逃がさないでね!」