詐欺師の恋
辛そうに歪んでいた藤代くんの顔は、さらに苦しげになる。



私はそんな藤代くんの顔を見ながら。


自分の心の中にも、冷たい風が過ぎったのを感じた。





「は、はは。ほら、やっぱり、そうでしょ??私のこと、ずっと好きだったって言ってくれた時、私信じなかったじゃない。私、藤代くんに嫌われてるって思ってたんだもん。」



藤代くんは。


価値の無い私のことを。


価値のある人間だって言ってくれた。


飯山の目の前で、かばってくれた。


辛い時、頼って良いよって言ってくれた。




戸惑いはあったけど、全部、素直に嬉しかった。


けどそれは全部妹さんのためで。


そんな藤代くんが、飯山達と同類だとは思えない。




「私のことなんか気にしなくて良いよ?本当のこと言ったって。いつも、利用されるばっかりなんだから、免疫ついてるって!」



それでも少しは傷付いて。


笑いたくなんて、ないんだけど。


こういう時には平気そうにふるまえと。



私の脳にはそうインプットされてるらしくって。



乾いた笑いが、零れて落ちていく。




「違う、櫻田…」




タカに掴まれたままの、藤代くんの目が、私を見つめながら揺れる。




「違うんだ…」




項垂れる藤代くんを前にして、タカが自分を抑えるかのように短く息を吐く。



そして、パッと藤代くんを解放すると。




「少し、話をしようか。」



そう言って、直ぐ傍にある植え込みを囲う石に座るように顎で示した。
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