詐欺師の恋
解放された藤代くんは小さく咳き込むと、端に寄ったけれど、立ったまま俯く。



一方、タカはどっかりと腰を下ろすと、私を見てにかっと笑った。



「カノンちゃんも、座りなよ。」



一瞬迷ったけれど、その顔を見て、緊張が少しほぐれて。


言われるままに、タカから少し間を空けて、腰を下ろした。




「…さっき、言ってたことだけど。零がミサキちゃんの死を喜んでるっていうのは、有り得ないことなんだ。」




タカの言葉に、俯いていた藤代くんが顔を上げた。


街灯の光は、私達より少し先を照らしていて、その零れたものが僅かにそれぞれの顔を闇に浮かべる。



「だって、零はその時既にこの街に居なかったから。」




「…それは、どういう…」




「零は、ミサキちゃんが死んだことすら、知らないんだよ。」




首を傾げた藤代くんに、タカが真剣な面持ちで答えた。




「燈真はその事実を俺にだって教えなかった。けど、俺は顔が広いからね。それなりに人脈がある。そして、俺も、それを零には伝えなかった。あれから、零はこっちに帰って来なかったし連絡も取ってなかったからね。それに―」



そこまで言うと、タカは一瞬押し黙った。




「それに?」



私が先を促す。



「それに…、それを知ったら、零はまた傷付く。」



タカの言葉に藤代くんが顔色を変えた。



「っ、なんだよ、それ!?あいつは傷付いてなんかいないじゃないかっ!!!」


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