詐欺師の恋
それからとりとめのないことを暫く話して、憲子が帰る支度を整え始めた頃。





「櫻田さん、また、届いてますよ。」





看護師さんが、カーテンの間からひょっこり顔を出した。





「あ、ありがとうございます。」




「毎日、良いですね。」




差し出されたそれを受け取ってお辞儀すると、看護師さんはにこりと笑って部屋を出て行った。





「…こないだから気になってるんだけど、どんどん増えていくその花、誰から??」




その様子を黙って見ていた憲子が、眉を寄せ、首を傾げた。



「それが、、、わかんないんだよねぇ…」




入院して次の日から。



丸い形をした薄いピンクのバラが、二輪ずつ、病室に届く。





差出人は、名前を言わないのだと看護師さんが言っていた。



一瞬、中堀さんかもしれないと期待して、髪色を訊ねたら、黒だった。






「多分…藤代くん辺りかと思うんだけど。」





来る時間帯は不規則で。


夜だったり、朝だったり、今みたいに昼だったり。




腰が痛くて、歩くのも難しいので、誰か確認する為に追いかけることも叶わない。





「へぇ、藤代??忙しそうなのにね。よっぽど花音の事が好きなのねぇ。」




憲子が茶化すように言うので、そんなんじゃないと苦い顔をして見せた。
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