詐欺師の恋
私と一緒に転がった携帯は、ものの見事に破損して。
連絡は病院の公衆電話から、実家と会社と憲子だけにしかしていない。私の記憶力の限界だ。
社内で憲子は藤代くんを何度か見かけているらしいけれど、忙殺されていて、まともに話もできやしないと言っていた。
だから、忙しい合間を縫って、とりあえず花だけ届けにきてくれているのだろう。
藤代くんのことだから、きっとすごく心配しているに違いない。
あの夜の告白を信じていいのなら、まだ私のことを好きで居てくれているから。
残念ながら、私にはその気持ちに応えることはできないけど。
「入院中にバラだけってどうかと思うけど…花音にあげるっていう点に限っては、まぁまぁセンスがあるわね。やるじゃん藤代。」
ベージュのスプリングコートを羽織った憲子が花瓶に近づき、花を人差し指でそっと突(つつ)く。
「センス??」
今しがた受け取った花のリボンを解きながら、私は横目で憲子を見て訊き返す。
「うん。花音さ、このバラ、なんて名前か知ってる??」
えっと。
すごい、可愛いバラだなとは思っていたけれど、知らない。
花瓶に挿さっている六つの内の一本を、憲子はすっと取り出して、首を振る私の頬に近づける。
「正解は、アプリコットファンデーション。」
「え?」
なおも首を傾げる私を見て、憲子はくすりと笑った。
「この花、色白の女の子が頬を染めたみたいに見えない??」
言いながら、憲子は持っていた花を花瓶に戻す。
「花音に、そっくりの花だよね。」
連絡は病院の公衆電話から、実家と会社と憲子だけにしかしていない。私の記憶力の限界だ。
社内で憲子は藤代くんを何度か見かけているらしいけれど、忙殺されていて、まともに話もできやしないと言っていた。
だから、忙しい合間を縫って、とりあえず花だけ届けにきてくれているのだろう。
藤代くんのことだから、きっとすごく心配しているに違いない。
あの夜の告白を信じていいのなら、まだ私のことを好きで居てくれているから。
残念ながら、私にはその気持ちに応えることはできないけど。
「入院中にバラだけってどうかと思うけど…花音にあげるっていう点に限っては、まぁまぁセンスがあるわね。やるじゃん藤代。」
ベージュのスプリングコートを羽織った憲子が花瓶に近づき、花を人差し指でそっと突(つつ)く。
「センス??」
今しがた受け取った花のリボンを解きながら、私は横目で憲子を見て訊き返す。
「うん。花音さ、このバラ、なんて名前か知ってる??」
えっと。
すごい、可愛いバラだなとは思っていたけれど、知らない。
花瓶に挿さっている六つの内の一本を、憲子はすっと取り出して、首を振る私の頬に近づける。
「正解は、アプリコットファンデーション。」
「え?」
なおも首を傾げる私を見て、憲子はくすりと笑った。
「この花、色白の女の子が頬を染めたみたいに見えない??」
言いながら、憲子は持っていた花を花瓶に戻す。
「花音に、そっくりの花だよね。」