詐欺師の恋
藤代くんは、果物バスケットの隣にもう一つパイプ椅子を出して、そこに腰掛ける。



「…ずっと気になってたんだ。櫻田が怪我したの、あの夜だろ?直ぐに確認したかったのに、携帯は繋がらないし…」



神妙な面持ちで話し出す藤代くんからは、緊張めいたものも感じた。







「なぁ・・・、足滑らせた、なんて、嘘だろ?」




一瞬の沈黙の後の、藤代くんの声は、静かで、低い。




「・・・・」





私はベッドから起き上がった状態で、無言で俯いた。




「俺、、結局あれからあの人に会いに行かなかった。けど、向こうからの連絡もなかった。…すごく、不安で…だから、もしあの人に何かされたなら俺、、」




「違うよ。」




藤代くんを遮って、私は首を振った。




「けど、櫻田」



「私がおっちょこちょいだっただけ。」





笑って舌を出すと、藤代くんは困ったような顔をする。





「櫻田。助かったから良かったものの…」



「いいの。」




今度は窘めるような口調になる藤代くんに、私はきっぱりと言い放った。



「っっ…」



そんな私の様子を見て、一瞬藤代くんは何か言いかけたようだったけど、やがて大きく溜め息を吐く。






「ホントに、頑固だよな。」






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