詐欺師の恋
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「あ、忘れちゃったな…」
藤代くんが帰ってから、私はふと思い出して、ベットからよろりと立ち上がる。
「いてて…」
痛みに顔を顰めながら、花瓶の花達を見た。
「お礼言うの、忘れちゃった。」
小さく反省しながら、さっきの藤代くんとの会話を思い返した。
ちょうどその時。
コンコン、とノックの音がして。
「櫻田さん」
いつもの看護師さんの声が私の名前を呼んだ。
「あ、はい。」
バラから視線を外し、入り口の方に目をやって。
「え?」
私は固まる。
「また、今日も届きましたよ。」
看護師さんが差し出したのは、紛れもない、いつものバラ、二輪。
それを受け取りながら、私の頭の中をクエスチョンが駆けずり回っている。
「……あ、あの…」
おかしい。
藤代くんは、つい15分前に帰った筈だ。
もしも持ってくるつもりだったのなら、さっき渡せばいいのに。
つまり。
「さっき…お見舞いに来た人じゃ、なかったですか?」
私の質問に看護師さんは、首を振った。
「え?いえ…さっきの人とは違いますけど…」
バラの送り主は、、藤代くんじゃ、無い。