詐欺師の恋
だから。





「『幸せだったのと同じように』!」





どうか、自分のせいで、皆が傷付く、なんて思わないで。





「『君が幸せであるようにと、いつも願ってる』!」






貴方だって、誰かを幸せにすることができるってことに気づいて。





「お父さんは、そう貴方に伝えて欲しいって言ったそうです!!」






それは、何もはっきりと目に見えるモノじゃなくても。






「誰かを傷つけない人は、この世界に一人もいません!!」






小さく思えることでもいい。





「私もっ、空生もっ、沢山誰かを傷つけて、でも、同じくらいっ、自分も傷ついてきたでしょう?!」





ただ、そこにいる、それだけでも、十分誰かを幸せにできる。






「もうそれで、十分じゃないですか!?」





また立ち止まっていた中堀さんが、今度こそ歩き出す。








「私は貴方にこれ以上傷付いて欲しくないっ!!!!」





頬を幾筋も涙が流れていく。



こんな泣き虫で、めちゃくちゃなこと言ってる私を。




置いていかないでと、本当は言いたかったけど。





「ひっ…くっ…」




もう、貴方の姿が見えなくなった。





視界から消えた。




もどかしい。



動かない、この身体なんて、脱ぎ捨てて。




窓から飛び降りてでも、追いかけたいのに。





飛べたら、良かったのに。




力のない、アルバトロス。


上昇気流を掴めないアホウドリ。


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