詐欺師の恋
「大丈夫ですか!?」
はっと我に返って振り向くと、年配の女の人が、階段の途中の段から心配そうな顔をして俺を見上げていた。
「今、救急車呼びましたからねっ!!」
―そうか。
言われて、気付く。
―そんなことすら、思い浮かばないなんて。
花音の上半身を抱えたまま。
どこかぼんやりとした感情の中で、自分を罵った。
「ご家族か、お知り合いの方ですか?」
数十分後、救急車が到着すると、そんなことを訊ねられた気がするけど。
なんて答えたか、よく、覚えていない。
でも、サイレンの音を聞きながら、目を覚まさない花音の顔をじっと見つめていたのは、記憶にある。
「足を滑らしたのかしらねぇ?とにかく結構勢い良く落ちてました。」
途中から状況を見ていたらしいさっきの女の人が、花音が落ちていく様子を俺の代わりに説明してくれていたと思う。
「助かるんですか…?」
搬送先の病院が、決まった矢先。
俺は隊員に訊ねていた。
「うーん。特に大きな外傷はないように見えますが…意識が戻らない限りはなんとも。。。」
やがて、救急隊員に運ばれて行く彼女に付き添って、車内に乗り込んだ。
冷たく感じられる花音の手に、自分のそれを絡めて。
祈るような思いで。
願うような視線で。
目を閉じたまんまの、花音を見つめた。