詐欺師の恋
病院、ていうのは。
いつ来ても、苦手だ。
誰も居ない廊下。
誰も居ない待合室。
薬品の、臭い。
あの人が、死んだ時も。
確認する為に、行ったな。
死に、慣れた場所。
何度、後悔しても、遅い。
もっと早く、会いに行けば良かったのに。
何度願っても、俺は立ち止まってしまう。
俺が会いに行く価値なんか、あるかと。
そうして、いつまで経っても、前に進めない。
夜中の病院で、昼間とは違う、静けさが支配した場所で。
待合室のベンチに座って、俺は一人、自分の手を、見つめた。
さっきまでの光景がフラッシュバックして。
情けない、と思った。
誰かが死ぬのに慣れてるなんて。
ずっと自分に言い聞かせてきた嘘だって。
認めたくなかったのに。
俺は、こんなにも、弱いのに。
だから、何も抱えず、一人で居たのに。