詐欺師の恋
顔を顰めて、動こうとしない足を叱り、一歩踏み出すと。




「ま、待って!まだっ、まだっ、あるんですっ!!伝えたいことが!!!」





慌てたような声が、降ってくる。





顔なんか、見えなくても。




あんたが見える。



きっと、頬を朱く染めているだろう。






「傍に居る時よりも!空生が居ない方が、私にはよっぽど苦しいってことをっ!!知っててください!!!」










「あと!!!!お養父さんからの伝言預かりました!!!」





『私が』



『君に逢って』



『幸せだったのと同じように』



『君が幸せであるようにと、いつも願ってる』



「っつ…」




勘弁してくれよ。




なんだよ、それ。




キラキラ光るあんたらが。




なんで、俺なんかにそんなこと言うんだよ。





あんたと俺とじゃ、住む世界が違うのに。





幸せ、なんて言葉は。





俺の中にないのに。





まるで、俺が。




生きてる意味があるみたいに。



存在価値が、あるみたいに。




「私は貴方にこれ以上傷付いて欲しくないっ!!!!」





花音の震える声が、枯れてくる。




お願いだから。




俺なんかの為に泣かないで。




俺はいくら傷付いてもいいから。




あんたさえ、笑っていてくれれば。




もう、あんたの泣き顔は見たくないんだよ。



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