詐欺師の恋
欲しいものを、欲しいと。
言って良いよなんて。
誰も教えてくれなかった。
当たり前のようにあるものなんて、何一つ無かった。
愛し、愛されることの意味すらも。
知らないから、それで良いと思ってた。
そのことに、自分が、憧れに近い想いを抱いていることすら、気付かなかった。
いや、それすらも、許されないと感じてた。
そんな俺に。
人は愛されたいと願う生き物なんだと。
それは、当たり前のことなんだよと。
教えてくれたヒトは、たった一人。
そのままの俺で。
そのままの俺が。
良いんだよと教えてくれたヒトも、一人。
夜明けの時間の、息の仕方も。
解けないままでいたあの人との結び目を、緩めてくれたのも。
俺が、欲しいと想うのも。
たった、ひとりだけ。