詐欺師の恋
「いってきまー…す」
戸締りを確認して、居間から玄関に向かう際。
ちらりと、伏せられた写真立てに目をやった。
無言で、さらにその下に隠すようにして入れてある、鍵を思う。
テーブルの上には、窓からの柔らかな陽射しが差し込んで、寒い冬のことなど、なかったかのように、振る舞っている。
「…と、いけない。」
一瞬、漂いかけた思考は、置き時計が目に入った事によって引き戻され、私は慌てて玄関へ向かった。
バタバタと鍵を閉め、外に出れば、ふわりとした空気が纏わりつく。
「ちょっと、暑いかなー?」
薄手のカーディガンの上に羽織った、春用のコートは必要なかったかもしれない。
置いていこうか、一瞬迷ったが、帰りは恐らく夕方になるだろうから、と思い直し、結局そのまま階段を下りて、駅まで向かった。
退院から、既に一ヶ月程経過していた。
怪我はすっかり良くなったものの、腰はまだ痛む。
だから、そんなに長くは座ってられないのと、父から祖母には伝えてもらった。
今日は、祖母の決めた人と会う日。
つまり、お見合いの日だ。
強制的な。