詐欺師の恋
何度か、叩いてみたけれど。
「…やっぱり、裏口かな。」
反応のない扉を前に、ちょっと気分が萎えた。
それよりも、この扉自体が音を吸収してしまっているような気がする。
ノックした所で、中に居る人に届くことはないんじゃないかな。
「最悪、居ないってことも…」
昼間だし、有り得るか、と。
裏口のある路地へと身体の向きを変えた数歩先。
「あ。。」
「―また、会っちゃったね。」
立ち止まって、私を見る、燈真の姿があった。
「俺はもう大分前から、君の顔は二度と見たくないと思ってるんだけどなぁ。」
人の良さそうな顔は健在。
顎に蓄えていた髭はもうない。
そのせいか、前よりも幾分若く見える。
声は、春に聞いた時と変わらず。
私の背中をぞくりと冷たいものが過ぎった。
映像が、感情と絡まって、燈真に拒否反応を起こしている。