詐欺師の恋
ゆっくり、ゆっくりと、距離を縮める燈真から、私は逃げないよう必死で足に力を籠めていた。
―頑張れ、花音。
わざわざ会おうと決めてきた、人物だ。
会えないかもしれないと思った瞬間だったんだから、却ってラッキーな筈なのだ。
「何で。」
先に口を開いたのは、燈真だった。
「警察に言わなかったの?俺の事。」
笑みは薄くなり、つまんなそうな表情で、私を見つめる彼の意図がわからない。
「…捕まりたかったような、言い方ですね。」
何故か、先ほどまでの緊張がすっと引いていき、やけに冷静に切り返す。
「そんなわけないでしょ?けど、花音ちゃんの悪運のが強いんだから、仕方ないよ。」
燈真は馬鹿にしたような顔を一瞬して。
「俺の負け。今のうちに消した方が、いいんじゃない?その方が都合が良いじゃん。」
伏せた瞼の横に、治りかけの傷跡があった。