詐欺師の恋
「どーせ、憲子は裕ちゃんとらぶらぶなんでしょ。いいなぁ」
完全な僻みを呟くと、憲子も顔を曇らせる。
「私達だって、何もない訳じゃないんだからね」
憲子のそんな反応は珍しい。
「何かあったの?」
相談に乗ってもらってばかりいる側の私が、戸惑いながら訊ねると。
「…いや、そうじゃなくて、付き合ってても何かとあるでしょ。そーいうこと。」
いつもとは明らかに違う様子だったけれど、詮索するのはやめることにして、頷いておく。
「さー、もう今日は早く帰ろう!」
気を取り直すようにそう言うと、憲子も同意して立ち上がる。
「あ、雪だ」
そこに誰かの声がして、オフィスに居る人たちがつられる様に窓の外を見た。
粉雪だった。
都心では珍しい雪が、今年は多い。
雪を見ると、中堀さんのことを思い出し、胸がぎゅっとなる。
忘れていることなんて、ないんだけど。
それでも雪を見ると、彼との思い出は濃くなる。