詐欺師の恋
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「あ、ごめん、花音。私、忘れ物してきちゃった。取ってくるから先行ってて。」
エレベーターを降りたところで、憲子が慌てたようにそう言った。
「一緒行くよ。」
「いいって、直ぐだから。」
「わかった、じゃ、自動ドアの脇で待ってる。」
「うん、ごめんね」
憲子は手を合わせて謝ると、今乗ってきたエレベーターで再度上に行く。
それを見送ってから、歩き出した所に。
コートのポケットの中の携帯が震えた。
「誰だろ?」
なんて口では言いながら、淡い期待が募る。
自動ドアの端に身を寄せながら、表示を確認すると、自然と笑みが零れた。
「中堀さん?」
携帯を耳に当てて名前を呼ぶと、
《仕事、終わった?》
大好きな声がした。