あの月の夜、きみと。
1 夏の日
セミの鳴く声が響く。
とけたアイスが指を伝う。

今年も暑さが厳しい。


無情にも終わりを告げる夏休み最後日、
残りの宿題をそうそうに切り上げた私は出窓にすわって本を読んでいた。

気持ちのいい風と一緒に
バイクの音が聞こえてくる。

新聞屋さんみたいな、ガチャガチャとした音。

なんだっけ、
あーゆーバイクはカブって言うんだっけ

なんてページをめくりながら考えていると、


『こんにちはーっ ピザステーションです!』


と元気な声が飛んできた。

『はいはい、どーもねー。暑い中ご苦労さまー』

『ほんとに暑いっす!』

『あら、暑くても若者は元気ねぇ』

『ありがとうございますっ!またお願いします!』


やりとりが2階にいる私にも筒抜けだった。

このうだるような暑さの中、元気に配達してる人はどんな顔だろう、と思わず視線を落とした先に、意外にも知った顔があった。

隣のクラスの、、、松岡くん?

喋ったことはないけど、見たことある。


へぇー、あんな声なんだ。


そんなふうにしか思わなかった。
まだこの時は。
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