あの月の夜、きみと。
『かえちゃん!』

呼びかけられて、それまでぼんやり見えていた景色がクリアになる。


『おっはよーう♪
今日も暑いねっ、汗がやばいよ〜』


体育着の袖を肩上までまくり、
うちわでパタパタと扇ぎながら、
いづみは今日も爽やかに私の前に現れた。


『おはよー、暑いね、ほんとに。
今日も朝練?』

『そうだよ!もぉ体育館、地獄!
驚きの蒸し暑さ!茹だるかと思ったぁ』


いづみとは、2年になって初めて同じクラスになった。初日からにこにこと人懐こい笑顔で
私に話しかけてきた。

『町田さん!私、長谷川いづみっていうの!
町田さん、保育に興味あるよね?!』

比較的人見知りせず、誰とでも話せる私でも、初めて会った人にこんなことを言われて驚いた。
ぎょっとしている私に、

『あ、、あ!ごめんね急に!
変だよね、びっくりするよね、ごめん!』

と言って困ったように笑った顔が、
とても可愛かったのを覚えている。

保育ボランティアの張り紙をじっと見ている私を見かけて、話したいなぁと思っていたのだと知った頃には、すっかり仲良くなっていた。



彼女はバスケ部に所属している。
背は平均より低い方に入るだろう。

それでも彼女はバスケが好きで続けている。
この暑さの中嫌がる素振りもなく、
毎朝、放課後、練習に励む。

その情熱は、
私と同じ夢にも向けられていた。


いづみも、保育者になるのが夢だ。



『夏休みのボランティア、楽しかったね!
また行きたいなぁ』


いづみに誘われて、夏休みのうちの1週間、
保育園のボランティアに参加した。

子どもと触れ合う機会がなかなか無かった私にとっては、とても貴重な体験だった。

ボランティア初日、自然と膝を折って、
目線を合わせて子どもと話すいづみの姿を見た園長先生が、
彼女、いい感覚してるね
と言ってるのを聞いたことがある。

私も同じことを思っていた。
いづみの周りには自然と子どもが集まった。
それはきっと彼女の"もっているもの"
なんだろう。


『うちらは進路決まってるし、
冬休みとかまた募集かかったら先生が
教えてくれるかもね』

『あるといいなーっ』

『いづみバスケ忙しいでしょ?
私そういう情報集めとくよ、まかせて!』

『え!ほんとに?!
かえちゃんありがとーっ♡』

汗だくのいづみが私に抱きついたところで
チャイムが鳴った。
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