あの月の夜、きみと。
やばい。

やばい。

寝坊した!!


バスを降りて学校へ向かう。
秋風が吹くなか汗をかきながら学校への裏道を全力で走る。
この時ばかりはお気に入りの景色も色褪せて見える。
帰宅部の私には辛い朝だった。


遅刻は回数を重ねると内申に響く。
推薦狙いの私は内申点を落とすわけにはいかなかった。

決して優等生ではない私が
いつも早めに登校してたのは、
そのためだったのに!
店長、、、内申落ちたら恨んでやる!


必死に走る私の心を打ち砕くように、
遠くから始業を知らせるチャイムが聞こえた。




『、、っく、、はぁぁぁー、、』


間に合わなかった、、、

もう走っても歩いても
遅刻という事実は変わらないのだと思うと、
一気に気が抜けた。
思う存分、ゆっくり歩くことにしよう。



私の通う高校は山の上にある。
駅の裏手から歩いて20分、
進むにつれて木が多くなり、畑が増え、栄えた駅からは想像できない程自然に囲まれる。

最後に急な坂を登って見えてくる。
山のてっぺんに立つくすんだ白。

私はこの道が好きだ。
四季の移ろいを肌で、目で感じられる。

もうすぐ冬がくる。
色づいた葉がそう言っていた。



学校に着き、職員室へと向かう。
遅刻した生徒は理由と登校した時間を紙に書いて、先生に提出しなければならない。

なんとも面倒くさいシステムだが、
きちんと書きにくる生徒がほとんどだと
先生は言う。

自覚することが大事なのだと。

ここはそういう校風なのだ。



遅刻届
名前:町田楓
理由:寝坊したため
時間:9時25分

のろのろと書いていると、


『おっ、町田か!珍しいなぁ!』


と、佐竹先生に声をかけられた。


『おはようございます、いや、
寝坊しちゃって、、』

『まぁたまにはそんな日もあるわなぁ!』


ガハハと笑って遅刻届を受け取り、
豪快な字でサインをしていると、
職員室の扉が開いた。

佐竹先生が私越しに扉を見る。


『あっ!松岡!お前また遅刻か!!』

『いやぁー、なんだか風が強くて、、、』

『お前テキトーなことばっか書いてると
受け取らないぞ。』

『え!いやいや、実はおばあさんが
道に迷ってて、、、』

『却下。』

『、、、』

『素直に寝坊と書ける町田の心を見習え。』


急に引き合いに出されてドキッとした。
思わず振り向く。
彼と目が合った。





『ピザ屋さん、、、』

『、、は?』



これが初めての会話だった。
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