Baby boo!
駅に着くなり、「じゃ」と短い別れを告げ、さっさと奴から離れようと目の前のエスカレーターを無視して横の階段から急いで駆け下りた。
はぁはぁと息を切らしながら、家に向かって歩き始めたところ聞き覚えのある嫌な音が迫ってきていた。
どうか、出張帰りのサラリーマンか旅行帰りのどこぞの誰かでありますように……っ
決して、奴では……っ
恐る恐る振り返った先には、こいつだけではありませんように、と願っていた張本人がいた。
恐ろしくて、思わずたじろいでしまう。
一体いつの間に……!
奴は難しい顔をしながら、紙切れをじっと眺めていた。
「先生、ちょっと道をお尋ねしたいんですが……」
「それなら交番で聞け」
そうあしらう俺に構わず、ずいっと紙を出してくる。
「ここに行きたいんです」
ちらっと見た、いや強制的に視界に入れさせられた紙きれには、見覚えのある住所が。
……てか、これって、俺んちの住所じゃねぇか!
「なんで?ここに何の用なんだ?」
「お父さんが、しばらくここでお世話してもらいなさいって。優しいお兄さんがいるからって」
……な、なんだそりゃ!!
まっったくそんなこと聞いてないんだが。しかも妹がいたなんて初耳だし。
……いやいや、待てあの親父だ。
昔から放浪癖があって、年がら年中ファッション感覚で女を取っ替え引っ替えしていた奴だ。
俺ができたから母親とデキ婚したが、そんな自由人な親父に母親は早々に嫌気がさしてすぐ離婚。
それからというものの、父一人子一人の父子家庭で慎ましく育ち……、
なんていうのは表向きで、父のたくさんいた彼女が母親を気取って色々世話を見てくれていた。
そんな女癖の悪い父親なもんだから、母親違いの兄妹がいたって何らおかしくないのだ。
だけど、こいつが俺の妹なんて……。