Baby boo!
「……ひとまず預かるけど、親父が帰ってくるまでなんて待てないから。次の部屋決めさせてさっさと追い出すからな」
『追い出すって、相変わらずお前は厳しい奴だな。一体、誰に似たんだ』
「当たり前だ、もう大人なんだから、甘やかしてんじゃねぇよ」
『くれぐれも、仁菜ちゃんには優しくしてやるんだぞ』
まだ電話口で、仁菜ちゃん、仁菜ちゃん言っていたが煩わしくて一方的に切ってしまった。
自分から勝手に頼んでおいてなんなんだ。俺に預けるのが心配なら海外なんて行かずにてめぇが面倒みろ。
こっちだっていきなり見知らぬ女押し付けられて迷惑だっての。
「お兄さん、そろそろ帰らなきゃ」
店内へ戻ると俺の呼び方が変わっていた。
「なんで?」
「お兄さんの部屋に、私の荷物を届けに引越し屋さんが来る頃だから」
……それを早く言え。
と、心の中で毒付き、少し冷めたブラックコーヒーを一口飲んでレジへ向かった。
家へ帰る途中、2人並んで歩いた。
スーツケースを転がす奴の歩調に少し合わせて。
「お兄さん、あの」
「そのお兄さんってのやめろ」
「じゃなんてお呼びしたらいいですか?あ、お名前なんていうんですか?」
「彰人だ」
「じゃ、あっきー」
「……彰人さんと呼びなさい。お前は?下の名前なんだっけ?」
「仁菜です、にいな」
「じゃ、仁菜でいいな。とりあえず家に来ていいけど、さっさと新しい部屋決めて出てってもらうから」
「えぇーっ!そんな、ひどいっ!」
まるで、俺を極悪人のような目で見て責め立てる。
「あぁ、やっぱりそういう運命なんだ、せっかく生き別れのお兄さんと再会したのに、すぐに追い出されるなんて……」
ひっく、ひっくとわざとらしくしゃくりあげる。
次は泣き落としか。
しかし、その目には一切涙など浮かんでいない。ただの泣き真似だ。
たく、嘆きたいのはこっちの方だ。
こんな、頭ぱっぱらぱーな少女としばらく一緒に生活するのかと思うと胃が痛くなってくる。